おしぼりの歴史:手を洗う習慣の起源とおもてなしの作法
おしぼりの歴史:おしぼりはいつの時代に生まれたのか?
おしぼりの起源については諸説が存在します。
『古事記(8世紀)』や『源氏物語(11世紀)』が編纂された頃に、公家が客人を自邸に招く際に、おもてなしのために出した濡れた布、という説。
一方、室町時代(14-16世紀)または江戸時代(17-18世紀)に、当時の旅籠(はたご、宿屋)が、宿泊客のために玄関先に手ぬぐいと水を入れた桶を用意したものが、おしぼりの起源であるという説も存在します。
おしぼりのルーツは手を洗う日本人の習慣
おしぼりがいつどこで生まれたのかは定かではありません。
しかし、おしぼりのルーツは、こまめに手を洗うキレイ好きな日本人の習慣にあります。
そして、日本人が手を洗う習慣を身につけたきっかけは記録に残されています。
日本人が手を洗う習慣を身につけたきっかけは古代の感染症の拡大だった
2020年、感染症が世界中に拡大する中で、日本人の手を洗う習慣が世界の人々から注目を集めました。
私たち日本人は子供の頃から手洗いの習慣をしつけられ、帰宅した際や、食事の前、トイレの後には当たり前のように手を洗います。
この当たり前になっている手を洗う習慣を私たち日本人が身につけたのは、意外にも古代の感染症の拡大がきっかけでした。
記録に残されている日本最古のパンデミック
8世紀に編纂された『日本書紀』には、記録に残る日本最古の感染症拡大の様子が記述されています。
3世紀(西暦250年頃)の古墳時代、国民の半数以上が死亡した疫病が流行しました。 このことを深く悲しんだ第10代崇神天皇は疫病を克服すべく神々に祈祷。
その一方で崇神天皇は、神社に手水舎(ちょうずや、てみずや)を設置し手を洗い身を清める習慣を奨励しました。
これが、日本人が手を洗う習慣を身につけるきっかけとなりました。
神社の手水(ちょうず)が庶民の暮らしの中に
神社をお参りする前に手を洗い清める手水(ちょうず)。
3世紀に始まり現代に伝わる手水(ちょうず)は、水道が普及するまでは比較的富裕な庶民の暮らしの中にもとり入れられていました。
明治から大正にかけて多数出版された礼儀や作法のマニュアル本の中には、手水を使った日常の手洗いや、客人に手水を進める際の作法が詳しく解説されています。
大正時代の礼儀と作法の文献に残る手洗いのおもてなし
大正8年に出版された『日本諸礼式』には、手水で手を洗った客人が濡れた手を拭くための手ぬぐいを出す作法までもが紹介されています。
手ぬぐいは直接手渡しするのではなく、扇子に載せて出すのが客人への礼儀でした。
清らかな水を用意して客人に手水を進め、扇子に載せた手ぬぐいを出すというおもてなしの心が、おしぼりという形に結実したのかもしれません。
おしぼりの歴史:店舗のおもてなしツールとして
1960年代:首都圏の飲食店の急増によっておしぼり業者が次々と創業
昭和30年代、戦後の復興期を経て高度成長期に入る中で、飲食店が急増しました。
はじめのうち飲食店は、客へのおもてなしとして自前で用意したおしぼりを提供していました。
しかし、飲食店を効率よく経営したいというニーズに応え、おしぼりを洗浄して飲食店に貸し出すビジネスが誕生。
昭和35年頃には、貸しおしぼり専門業者が登場しました。
貸しおしぼりのニーズの増加とおしぼりの多様化
貸しおしぼりのニーズの増加にともないおしぼりロール機などが開発され、貸しおしぼり専門業者はおしぼりの量産体制を整えるようになりました。
また、おしぼり加熱器などの機械の開発によって温めたおしぼりが登場。
おしぼりはその後も進化を遂げ、冷たいおしぼりや不織布製のおしぼり、紙おしぼりなど、様々なおしぼりがおもてなしツールとして使われるようになりました。
おしぼりの海外進出
日本のおもてなし文化であるおしぼりは、今では海外でも少しづつ定着しつつあります。
おしぼりが海外に進出するきっかけを作ったのは日本航空でした。
日本航空は独自に開発したアロマの香りを染み込ませたおしぼりを、国際線の飛行機が離陸した後の搭乗客への最初のサービスとして提供。
アロマの癒しでおもてなしするおしぼりのサービスは外国人にも好評で、今では海外の航空会社などでもおしぼりの提供が採用されています。
【参考】
https://www.jal.co.jp/jp/ja/dom/service/f/other/
おもてなしから生活必需品へと進化するおしぼり
2020年、未知の感染症による恐怖が世界の人々を覆い尽くしました。
そのような中で、子供の頃から手を洗うことをしつけられてきた私たち日本人の生活習慣があらためて見直されました。
手を洗う習慣と同時に注目を集めたのがおしぼりでした。
日本古来の伝統であるおしぼりは、日本の最新のテクノロジーと融合。
抗菌おしぼりや抗ウイルスおしぼりにまで進化したおしぼりは、今やおもてなしツールを超えて身を守るための生活必需品として、人々の安心安全に寄与しています。